9件から856件へ──
東京のアライグマは、なぜ「捕っても減らない」のか
先日、墨田区の路上で1頭のアライグマが目撃された。たった1頭、と受け流せる小さなニュースだ。だが東京都の統計をたどると、その背後で別の数字が動いている。アライグマに関する東京23区の相談は、2013年度の9件から2024年度の856件へ。十年あまりで、およそ95倍に膨らんでいた。
東京で、アライグマが「増えている」とはどういうことか
2026年5月、墨田区東向島で野生のアライグマが目撃され、区が住民に注意を呼びかけた。家獣ラボも、この1頭を別の観測室記事で取り上げている。ニュースとしては小さい。しかし週刊女性PRIMEは5月30日、この一件を入口に、東京都全体でアライグマが急増している実態を報じた。東京都環境局のデータをもとにした数字は、こうだ。
9件と856件。並べてみると、墨田区の1頭が「たまたま現れた珍客」ではないことがわかる。それは、十年かけて23区の足元まで広がった分布の、最新の一点だ。点に見えていたものは、実は線の上にあった。
なぜ、捕っても捕っても減らないのか
ここで多くの人がこう考える。2024年度に1541頭も捕まえているなら、いずれ減るのではないか、と。だが話は逆かもしれない。捕獲数が令和3年度以降4年連続で過去最多を更新しているという事実は、減っている証拠ではなく、それを上回って増えている証拠でもある。
「全体の半分以上を捕り続けない限り、数は減らない」
アライグマは繁殖力が高い。毎年生まれてくる数を上回るペースで捕り続けない限り、個体数は増える一方になる。池田氏は、その境目を「全体の半分以上」と表現した。2024年度の1541頭という数字は多いように見えて、増加のスピードに追いついていない可能性がある。捕獲の現場は、増え続ける曲線をなぞっているだけ、という見方もできるのだ。
やっかいなのは、相手が賢いことだ。アライグマは学習能力が高く、都市のように情報の多い環境では知恵がさらに働くとされる。対策が後手に回るほど、捕まえにくい個体が街に残っていく。しかも行政の現場は、いまクマやシカの対応に追われ、アライグマまで手が回りにくいのが実情だという。増える側には時間が味方し、減らす側は時間に追われている。
ただ、つけ入る隙もある。アライグマは好奇心が学習能力を上回る場面があり、見慣れないものをつい確認しに来て、罠にかかりやすい一面を持つ。だからこそ、データにもとづいて仕掛ける側の戦略が効く。環境省の外来生物法にもとづく防除の枠組みでは、自治体の制度のもとで講習や登録を受け、従事者として位置づけられれば、狩猟免許を持たない住民でも捕獲作業に協力できる場合がある。「行政だけ」でも「専門家だけ」でもなく、住民を巻き込んだ面の対策。それが、増え続ける曲線を折るための数少ない手立てだ。
では、わたしたちの街で何をするか
東京のアライグマが統計の上で増え続けている、という話は大きすぎて、自分ごとになりにくい。だが住民の側でできることは、意外と具体的で小さい。家屋に侵入する害獣への基本動作と、ほとんど同じだ。
墨田区で起きたことは、隣の区でも、自分の住む街でも起こりうる。9件が856件になるまでに、十年あった。次の十年をどう描くかは、増えてから慌てるのか、目の前の一頭から動くのかの差でしかない。家獣ラボは、家屋に侵入する5匹を扱うメディアとして、この前線を引き続き観測していく。
出典・参考情報
- ◆ 週刊女性PRIME 『アライグマ』が東京23区で激増「最も恐ろしいのは感染症」専門家が指摘する遭遇時の"NG行動" 2026年5月30日配信
- ◆ 東京都環境局 東京都のアライグマ・ハクビシンの被害及び対策の状況について 東京都環境局公式サイト
- ◆ 東京都環境局 東京都アライグマ・ハクビシン防除実施計画(令和8年度改定) 東京都環境局(PDF)
- ◆ 環境省 日本の外来種対策|防除に関するQ&A(外来生物法) 環境省公式サイト
- ◆ 厚生労働省 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A 厚生労働省公式サイト
観測室の論評は、家獣ラボ編集部による独立した分析です。一次ソースの内容を要約・引用していますが、家獣ラボ視点の解釈は当該メディアの公式見解とは異なる場合があります。
増え続ける、その一頭に出会ったら
東京のアライグマは、統計の上では増え続けています。けれど住民にできるのは、目の前の一頭に正しく対処すること。家獣ラボのアライグマ駆除ガイドでは、生態・侵入経路・感染症リスク・業者に頼む判断軸まで体系的に整理しています。