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日本の住宅の屋根裏空間で、木材の梁の奥に走る黒い電気配線の一部に齧り跡があり、被覆が剥がれて銅線が薄く露出している様子を、点検用ライトの光が斜めに照らし出すクローズアップ写真。
実害・リスク

配線かじりと火災リスク
──ネズミ被害が招く電気火災の実態

更新日:2026年5月24日読了時間:約8分カテゴリ:実害・リスク家獣ラボ編集部(運営:株式会社ドゥアイ)

天井裏の物音や齧り音は、音の問題だけで終わらないことがあります。ネズミが配線をかじり始めると、家屋の被害は物損から電気火災のリスク領域に踏み込みます。齧歯類の歯の特性から、点検を優先したい5つの場所、火災に至るメカニズム、緊急時の安全確保から駆除・電気工事までの順序を整理しました。

結論──配線かじりは「物損」ではなく「火災リスク」として扱う

ネズミの被害というと、糞尿汚染や食害がイメージされやすいのですが、家屋にとって最も深刻なのは配線かじりから起こる電気火災です。物理的な齧り傷だけでなく、被覆損傷を起点として短絡・漏電・トラッキング現象が連鎖し、出火に至るケースが報告されています。

この記事は、配線かじりという見過ごされがちな被害を、火災リスクとして読み直すための整理です。具体的には、①齧歯類が配線をかじる生物学的理由、②家屋内で点検を優先したい5つの場所、③火災に至る3つの発火メカニズム、④出火前に気づきたい危険サイン、⑤緊急時の安全確保から駆除・電気工事までの順序、⑥火災保険のカバー範囲、の6つを順に扱います。

※本記事で扱う件数・割合は、各公的機関が公表している統計や注意喚起に基づく一般的な傾向です。個別の火災原因の特定は所轄消防・電気工事士・保険会社の調査結果に従ってください。

実態──ネズミ起因の電気火災は実際に起きている

ネズミによる電気火災は、特殊な作り話ではなく、消防・製品安全機関の事例として実際に確認されている現象です。消防防災科学センターに掲載された東京消防庁予防部調査課の事例資料では、東京消防庁管内で動物(ネズミ・ゴキブリ・ペット等)が関係した火災は毎年平均20件程度発生したと紹介されており、その中には壁内・天井裏配線の齧りによる短絡出火や、分電盤内へのネズミ侵入による短絡など、ネズミ起因の電気火災事例が複数含まれています。

住宅火災に占める電気起因の比率も小さくありません。消防庁(総務省の外局)の令和6年(1〜12月)における火災の状況(確定値)では、住宅火災のうち電気機器・配線器具・電灯電話等の配線を発火源とする件数が継続的に上位を占めており、合算で住宅火災の約2割に達しています。配線器具を原因とする事故については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の2024年公表「無頓着は火事の元!〜5年で2倍、配線器具の火災事故に注意!〜」でも注意喚起が出されており、延長コード・電源タップの事故が直近で増加傾向にあると報告されています。

ネズミ齧りが直接の出火原因として確認されるのは、現場に齧り跡・糞・死骸など物理的な証拠が残ったケースに限られます。実際の関与はこれより多いと推測されており、配線かじりは「件数の少ない例外」ではなく「見えにくい常時リスク」として扱うのが妥当です。

なぜネズミは配線をかじるのか──齧歯類の歯の特性

ネズミが配線をかじるのは、いたずらでも単なる空腹でもなく、生物学的な必然です。ネズミを含む齧歯類(げっ歯類)の切歯(前歯)は「常生歯」と呼ばれ、生涯を通じて伸び続ける性質を持っています(参考:なごや生物多様性センター「ネズミの前歯はのび続けるとどうなるの?」)。

伸び続ける歯を放置すると噛み合わせが崩れ、最悪の場合は摂食ができなくなって死に至ります。ネズミは硬いものを噛み続けることで切歯を自然に削り、適切な長さを保とうとします。家屋内でその対象となるのが、木材・断熱材・プラスチック被覆の電気配線です。電気が通っているかどうかはネズミにとって関係なく、噛みやすい硬さと太さの物体として配線が選ばれています。

さらに、ネズミは周囲の物を齧って歯を摩耗させるため、移動ルート上の配線も対象になりやすい構造です。屋根裏に侵入した個体が走り回る経路の近くにある配線は、初期段階で標的にされやすいと考えられます。種の特定や個体数の把握についてはネズミ駆除の完全ガイドを、屋根裏の音から害獣を絞り込む方法は屋根裏の音から害獣を見分けるを参照してください。

点検を優先したい5つの場所──配線かじり危険ゾーンマップ

ネズミの配線かじりは、家屋のどこでも均等に起きるわけではありません。ネズミの行動範囲と配線の通り道が重なりやすい代表的な5箇所を、点検優先ゾーンとして整理しました。家屋を断面で見たときに、どこを重点的に確認すべきかをマップ化しています。

日本の戸建て住宅を縦に切った断面イラスト。屋根裏(小屋裏)/壁内(柱と柱の間の縦走配線)/床下/家電裏(テレビ・冷蔵庫の背面)/コンセント裏(壁内の埋込ボックス周辺)の5箇所に、配線とネズミの齧り跡を示すアイコンが配置された配線かじり危険ゾーンマップ。
図:ネズミの配線かじりが起きやすい家屋内5箇所

屋根裏(小屋裏)は配線かじり点検の代表的な場所です。照明配線・分電盤からの幹線・エアコン配管に並走する配線が露出しやすく、断熱材を巣材にしながら齧る複合被害が起きやすい場所として知られています。壁内は柱と柱の間を縦走する配線がネズミの移動ルートと重なります。点検が難しく、被害の発見が遅れがちです。

床下は土台沿いの配線がターゲットで、湿気と相まってトラッキングのリスクも上がります。家電裏は冷蔵庫・テレビ・洗濯機の背面で、ホコリと配線が密集し、ネズミが暗所を移動する経路でもあります。コンセント裏は壁内の埋込ボックス周辺で、齧り傷とホコリの両方が揃いやすく、トラッキング現象の引き金になり得る箇所です。

火災に至るまでの3つのメカニズム

配線が齧られたからといって、すべてが即座に火災になるわけではありません。被覆損傷から出火に至るには、短絡・漏電・トラッキングのいずれか(または複合)のメカニズムが介在します。

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短絡(ショート)による発火 被覆を齧られて銅線が露出した状態で、別の導線や金属部に触れると短絡電流が流れます。瞬間的に大電流が流れることで火花が散り、周囲の断熱材・木屑・ホコリに着火するパターンです。屋根裏のように可燃物の多い空間では、短絡から本格的な火災に発展しやすい構造です。
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絶縁不良・地絡による発熱・発火 銅線の露出箇所が湿気を帯びた木材や金属部に接触し続けると、本来の経路を外れて電流が流れる「地絡」が起こり得ます。被覆樹脂の劣化(絶縁不良)と組み合わさると、局所が高温になり、被覆や周囲の可燃物が炭化・発火することがあります。漏電遮断器があれば回路が切れる場合もありますが、検知より早く局所が過熱しているケースも報告されており、「遮断器があるから安全」と過信せず、被覆損傷を見つけたら通電を避けて電気工事士の点検を受けるのが基本です。
3
齧り跡+トラッキング現象の複合 コンセント裏や家電裏でネズミ齧りに加えて、ホコリと湿気が堆積するとトラッキング現象が起こり得ます。電極間にトラックと呼ばれる炭化導電路が形成され、ショートと発熱を繰り返して発火に至ります(参考:NITE「電源プラグ──トラッキング現象で発火」)。齧り傷で被覆が損なわれていれば、トラッキングの引き金が引かれやすくなります。

いずれのメカニズムも、共通項は「被覆が損なわれていること」です。配線そのものは正常に見えても、被覆に齧り傷があれば、湿気・ホコリ・接触条件の変化で発火リスクが急上昇します。齧り跡を発見した時点で、見た目の損傷度合いに関わらず電気工事士の点検対象として扱うのが安全です。

火災に至る前に気づきたい5つの危険サイン

配線損傷から出火に至る前に、次のような兆候が現れることがあります。これらのサインに早く気づけるかが、被害をボヤで止められるかどうかの分かれ目です(兆候なく発火するケースもあるため、過信は禁物です)。

発火前に現れる兆候

この5つに気づいたら配線を疑う

  • ブレーカーが頻繁に落ちる 特定の系統だけで漏電遮断器が繰り返し作動する場合、その回路のどこかで漏電している可能性があります。家電を増やしていないのに落ち始めたら、配線本体の損傷を疑います。
  • 焦げ臭い/ビニールが焼ける臭い 屋根裏・壁内・コンセント裏から焦げ臭が漂う場合、被覆の樹脂が過熱して炭化しているサインです。発火直前まで進行している可能性があるため、すぐ通電を止めて確認します。
  • コンセント・スイッチプレートの変色 プレート周辺が薄茶色・黒っぽく変色していれば、内部で局所過熱が起きている兆候です。トラッキング現象や端子の緩みが疑われ、ネズミ齧りと併発しているケースもあります。
  • 照明のチラつき・家電の不調 蛍光灯・LEDが理由なくチラつく、家電の電源が不安定、特定回路だけ電圧が低い──これらは配線損傷による接触不良のサインです。複数の家電で同時に起きる場合は配線側を疑います。
  • 屋根裏・壁内から齧り音と被覆片 齧り音が続き、点検口や換気口の周辺に被覆の小片・銅線の破片が落ちている場合、すでに配線本体が損傷しています。すぐにブレーカーを落とし、無理に屋根裏に上がらず業者へ連絡します。

いずれかのサインを確認したら、該当系統のブレーカーを落とし、屋根裏や壁内に無理に立ち入らず、専門業者に連絡するのが基本です。家電の不調を「製品の寿命」と片付けず、まず配線側を疑う視点を持っておくと、見落としが減ります。

緊急時の安全確保から駆除・電気工事までの順序

配線被害が確認できた場合、対応の順序を間違えると修繕費が二重にかかるだけでなく、火災リスクを抱えたまま作業を進めることになります。電気の安全確保を最優先にしたうえで、駆除と電気工事を順序立てて動かすのが基本です。

推奨される順序は、0. 焦げ臭・ブレーカー作動・被覆損傷・火花など電気的な異常がある場合は、まず該当系統のブレーカーを落として通電を止め、必要に応じて電気工事士に応急的な安全確認を依頼します。そのうえで、1. ネズミ駆除(駆除業者)、2. 侵入経路の封鎖(駆除業者)、3. 屋根裏・壁内の清掃と消毒(駆除業者または専門清掃)、4. 配線の損傷点検と本修繕(電気工事士)の5ステップに進みます。駆除と封鎖を先にやらなければ、配線を新品に交換しても再侵入で同じ被害が再発します。逆に、配線修繕だけ先行させると、ネズミがまだ家屋内にいる状態で工事することになり、安全性も施工品質も担保できません。

配線の交換・補修は、必ず電気工事士法に基づく有資格者が施工します。壁内配線・分電盤まわり・埋込コンセントや配線器具への電線接続を伴う作業は、原則として有資格者の領域とされており、DIY対応の対象外です(参考:経済産業省「電気工事の安全」)。駆除業者と電気工事業者が連携する体制を持つかどうかも、業者選定時の確認ポイントになります。詳しくは害獣駆除の相見積もりの取り方業者選びガイドを参照してください。

火災保険は何をカバーし、何をカバーしないか

ネズミ齧りと火災保険の関係は、3つの軸に分けて整理しておくと誤解が減ります。

まず①配線そのもののねずみ食い損害は、多くの火災保険の約款・重要事項説明書で免責(補償対象外)とされています。「ねずみ食い、虫食い等による損害」は支払えない主な場合に含まれることが多く、齧られた配線そのものの修繕費は、原則として自己負担になります。

次に②齧り傷を原因として広がった火災損害は、火災補償の対象になり得ます。配線かじりが直接の出火原因となって建物や家財に火災が広がった場合、建物の焼損・煙害・放水損などは、火災保険の基本補償である「火災」「破裂・爆発」の枠で評価されるのが一般的です。ただし、補償の適用には原因調査の結果、契約内容、免責条項の解釈などが関わるため、保険会社の判断が必要です。

最後に③家電本体の漏電・電気的故障は、火災に至らない範囲の損害が「電気的・機械的事故」として免責や特約制限の対象になることがあります。火災として建物・家財に広がった損害とは扱いが分かれるため、家電単体の故障については別途、加入している保険会社に確認するのが現実的です。

まとめると、駆除費用そのものは火災保険の対象外配線のねずみ食い修繕費も原則自己負担、しかし火災として広がった建物・家財損害は補償対象になり得る──この3軸を押さえて、配線かじりが疑われた段階で保険会社に状況を伝えておくのが現実的です。詳しくは害獣駆除に火災保険は使える?で、約款の標準文言から申請手順、必要な証拠の揃え方までを整理しています。

主な参考情報

本記事の作成にあたって、家獣ラボが参照した一次情報を以下にまとめます。電気火災の統計・火災保険の取扱い・電気工事の法的位置づけは、関係機関の最新情報と保険会社・自治体・専門業者への確認を併用してください。

消防・火災統計

製品安全・電気火災

電気工事の法令・有資格者要件

火災保険・補償の取扱い

生態・研究機関

本記事で扱う火災件数・割合・補償取扱いの記述は、各公的機関の公表資料および保険業界の一般的な取扱いをもとにした整理です。法令・約款・統計の数値は変更されることがあるため、対応開始前に最新の公式情報と所管自治体・保険会社・電気工事業者への確認をおすすめします。本記事は意思決定整理を目的とした読み物であり、個別の火災原因の特定や補償の可否判断は、所轄消防・電気工事士・保険会社の調査結果に従ってください。

齧り跡を見つけた、その日のうちに

配線かじりは、見えるところで止まりません。被害が確認できた時点で、駆除と電気工事を順序立てて動かすのが、火災リスクを最短で下げる方法です。家獣ラボでは、業者選びの判断軸と相見積もりの取り方を整理した特集ページを用意しています。即決ではなく、3社の見積もりを取って比較する余裕が、結果的に時間とコストの両面で合理的な判断につながります。